オーストリアン・ナソロジーとは

オーストリアン・ナソロジーは、人類の進化と、生まれてからの成長発育の中で顎と歯がどう形づくられてきたかを出発点に、噛み合わせを考える理論です。

骨格、顎関節の動き、一本ずつの歯、昼と夜の歯の接触を別々に扱うのではなく、噛むための器官(咀嚼器官)という一つの仕組みとして診ます。

ナソロジー(gnathology)は、噛み合わせと顎の働きを研究する歯科の一分野を指す言葉です。

院長の投稿では、「佐藤–スラビチェック理論(オーストリアンナソロジー学派)」のように、この考え方を、佐藤–スラビチェック理論、佐藤–スラビチェック コンセプト、オーストリアンナソロジー学派などの名前でも呼んでいます。

当院の診査と設計は、この考え方に沿っています。

顎関節症の治療だけでなく、矯正、入れ歯、かぶせ物でも同じです。

開発の背景

もとになったのは、ウィーン大学の補綴学の教授だったルドルフ・スラビチェック教授(1928〜2022年)の考え方です。

教授は、顎関節の動きを記録する方法や咬合器など、診査と設計をつなぐ器具と方法の開発に関わり、その噛み合わせの理論は「ウィーンの咬合の考え方」としてまとめられました。

1989年、スラビチェック教授は神奈川歯科大学に招かれて講演し、佐藤貞雄氏(のちの同大学教授)と出会いました。

二人の協力はその後も深まり、1990年代半ばからは、佐藤教授がウィーンでも講習を行うようになりました。

院長の説明では、この体系をつくったのがスラビチェック教授で、佐藤教授と各国の弟子たちが、研究と臨床での評価を重ねてきました。

院長とこの考え方

院長がこの考え方に出会ったのは、1999年に受けた佐藤教授の講習会でした。

院長は、佐藤教授から、成長発育の考え方と、歯にかかる力の考え方を学んでいます。

その後、2000年にスラビチェック教授から義歯設計の考え方を直接学び、両教授のもとでの「咬合と脳機能とストレス」の研究にも携わりました。

経歴は院長紹介、研究は研究活動・論文・学会のページでご紹介しています。

オーストリアン・ナソロジーのしくみ

この考え方では、歯が当たっている場所だけを見て、噛み合わせを決めることはしません。

次の5つの視点をつなぎ、測った情報を治療の設計へ移します。

視点確かめること設計へのつなぎ方
進化と成長発育頭の骨、上あご・下あご、歯列の成り立ち骨格と歯の位置関係を考える
共通の基準の面骨格、顎関節の動き、噛む面の傾き同じ基準で値を読み、咬合器へ移す
一本ずつの歯歯の高さ、傾き、軸の向き歯ごとに要る角度を考える
順番に離れる噛み合わせ下あごを動かしたときの歯の離れ方歯ごとのガイドの傾きを組み立てる
寝ている間の噛み合わせ睡眠中の歯の接触昼とは別に、夜の接触も確かめる

① 進化と成長発育から見る

この考え方では、咀嚼器官を、ただ噛むためだけのものとは考えません。

人類の進化の中で、姿勢の変化や、脳と言葉の発達とともに形を変えてきたものとして捉えます。

咀嚼器官は、食べることだけでなく、呼吸や飲み込み、人とのやりとり、ストレスへの対処にも関わる仕組みとされています。

頭の骨や顎、歯列は、遺伝で決まった形のまま育つのではなく、生まれてからの働きや環境に適応し、補い合いながら形づくられる、という見方をします。

佐藤教授らは、奥歯の部分で歯の大きさに対して骨の土台が足りないこと(ポステリア ディスクレパンシー)にも注目してきました。

この見方は、ラテラルセファロ分析のページでもご紹介しています。

② 同じ基準の面で測り、咬合器に表す

すべての計測は、アキシス・オルビタール平面(顎関節の回転の軸と、目の下の一点を通る面)を基準にします。

基準をそろえることで、骨格の分析、顎関節の動き、噛む面の傾きを、一つの物差しで読めます。

その値は、ギルバッハ レファレンスSL咬合器の上に表します。

頭の骨格の図に咬合器の図を重ね、アキシス・オルビタール平面(Axis-orbital plane)や角度の線を書き入れた図
アキシス・オルビタール平面を書き入れた、咬合器と頭の骨格の図

③ 一本ずつの歯に、角度を与える

分割模型の上で、一本ずつ形を作ったワックス(全顎)
分割模型の上のワックス

歯の高さや角度、歯の軸の向きは、歯によって違います。

この考え方では、歯の斜面の角度(咬頭傾斜角)も、歯ごとに決めて与えます。

そのために使うのが、歯を一本ずつ外せる分割模型で、院長はこれを、この考え方の基本の操作としています。

一本ずつ形の違う歯が並んだ、白いかぶせ物
一本ずつ形の違う歯が並んだ、かぶせ物

④ 奥の歯から順に離れる噛み合わせ

歯ごとのガイドの傾きは、下あごを横へ動かしたときに、奥の歯が先に離れ、犬歯などが導き役に残るように組み立てます。

この噛み合わせを、シーケンシャルオクルージョン(順次離開咬合)と呼びます。

矯正から総入れ歯まで、同じ理論で組み立てられるとされています。

⑤ 寝ている間の噛み合わせを考える

この学派は、脳の進化、心のストレスと、噛み合わせの関係を理論づけてきました。

スラビチェック教授と佐藤教授は、歯ぎしりや食いしばりを、心の負担が大きいときに働く、咀嚼器官の働きの一つとして論じています。

これは考え方の紹介で、当院の治療でストレスが減る、という意味ではありません。

当院では、昼の噛み合わせとは別に、寝ている間の歯の接触も確かめます。

そのために使うブラックスチェッカーは、製造元の説明では、佐藤教授の方法にもとづく器具です。

当院がオーストリアン・ナソロジーを使う理由

治療が変わっても、診査と設計の物差しをそろえるため

矯正、入れ歯、顎関節症、かぶせ物では、治療の方法も、最後にできあがるものも違います。

どの治療でも、まず骨格や顎の動きを測り、その記録をもとに目指す噛み合わせを決めていきます。

全員を同じ形にするのではありません。

一人ひとりの測った値を、同じ物差しで読むということです。

測った値を、形にするまでつなげるため

検査で数値を得るだけでは、歯や装置の形は決まりません。

この考え方では、同じ基準の面で測った値を咬合器の上に表し、解析の結果を手に取れる形へ移していきます。

今の噛み合わせを、そのまま写さないため

今の噛み合わせを、そのまま新しい歯に写すと、問題のもとになったずれまで写してしまうことがあります。

そこで当院では、測ったデータから、目指す噛み合わせを決めます。

寝ている間の歯の接触まで、考えに入れるため

院長は、噛み合わせを、昼の検査で見える接触だけでなく、寝ている間の接触まで含めて考えています。

寝ている間の接触は、治療を始める前に加えて、治療の途中と終わったあとにも確かめます。

長い年月の経過で、確かめていく考え方だから

院長は、噛み合わせの考え方の良し悪しは、短い期間や一つの経過では判断できず、長い年月の経過で確かめるものだと考えています。

院長自身も、長い経過を見ながら、設計の考え方を見直してきました。

当院での実際

オーストリアン・ナソロジーは、一つの検査や装置の名前ではありません。

検査をどう読み、目指す噛み合わせをどう設計し、形にして確かめるかをつなぐ考え方です。

1. 診査する

検査は、骨格のX線写真、顎関節の動きの記録、歯型と模型、写真などを、症状やお口の状態に合わせて組み合わせます。

確かめること使う技術
骨格ラテラルセファロ分析
力を抜いた状態の、顎関節の動きキャディアックス
噛みしめた状態の、下あごの動きの跡(入れ歯をつくるとき)口内法のゴシックアーチトレーシング
一本ずつの歯分割模型
噛む面の傾き咬合平面の計測
寝ている間の歯の接触ブラックスチェッカー

症状が重いときには、瞳孔反射による、自律神経の反射の検査を加えることもあります。

ラテラルセファロ(横顔のX線写真)の分析画面。骨格の上に分析の線と記号が描かれている
ラテラルセファロの分析画面
キャディアックスの記録画面。右(Right)と左(Left)に分かれた方眼の上に、顎関節の動きの軌跡が線で表示されている
キャディアックスの記録画面(左右の顎関節の動きの軌跡)

2. 設計する

検査の結果を合わせて、治療で目指す下あごの位置(治療顎位)を考えます。

その位置をもとに、一本ずつの歯の高さと角度、噛む面の傾き、下あごを動かしたときの歯の離れ方を決めます。

検査の値から示されるのは、目指す噛み合わせのおおよその目標です。

結果を約束する値ではなく、口の中で確かめる前の設計の値として扱います。

咬合器に設定する、歯ごとの角度の数値を並べた表
歯ごとの角度の設定表

3. 形にする

設計した顎の位置や噛み合わせは、治療ごとの形に表します。

形の設計(ワックスアップなど)は、測った値と模型を確かめながら、院内の技工室で行います。

総入れ歯も部分入れ歯も、この考え方に沿って設計しています。

4. 確かめる

最終的なものへ進む前に、装置や仮歯・仮義歯で、設計した位置と噛み合わせを口の中で確かめる段階を設けます。

装置などを入れたあとに、顎の動きや歯の当たり方をもう一度記録して、設計と比べることもあります。

寝ている間の歯の当たり方は、治療が終わってからも見続け、得られた状態が保たれているかを確かめます。

模型の上の、奥歯の仮歯。噛む面に、赤と青の咬合紙の跡が残っている
咬合紙の跡が残る仮歯(模型の上)

オーストリアン・ナソロジーでできること・できないこと

この考え方でできること

  • 矯正・入れ歯・顎関節症・かぶせ物の診査と設計に、共通の物差しを持たせる
  • 骨格・顎関節・歯の値を、同じ基準の面でまとめ、咬合器の上に表す
  • 一本ずつの歯に、その歯に合った角度を与える
  • 目指す噛み合わせのおおよその目標を、数値で示す

できないこと・当院での補い方

できないこと当院での補い方
理論だけで、その方の顎の位置や歯の角度を決めることラテラルセファロ分析・キャディアックス・分割模型などで、その方の値を測る
治療の結果を、前もって約束すること装置や仮歯・仮義歯で確かめ、必要に応じて記録し直す
寝ている間の歯の接触を、昼の診察だけで知ることブラックスチェッカーで、寝ている間の接触の跡を確かめる
頭痛や肩こりなどの症状の原因を、顎と歯の記録だけで決めること噛み合わせのほかにも原因がありうると考え、医科などでの評価をおすすめすることがある(顎関節症の治療ページ)

実際の経過には、体の適応の違いや、噛み合わせ以外の要因も関わるため、個人差があります。

よくあるご質問

オーストリアン・ナソロジーは、治療法や機器の名前ですか?

いいえ。噛み合わせをどう診て、どう設計するかをまとめた考え方の名前です。

キャディアックスや咬合器、分割模型、ブラックスチェッカーなどは、この考え方に沿って情報を集めたり、形に表したりするための道具です。

「佐藤–スラビチェック理論」と同じものですか?

はい。院長の投稿では、「佐藤–スラビチェック理論(オーストリアンナソロジー学派)」のように、同じ考え方をこれらの名前で呼んでいます。

顎関節症の方だけに使う考え方ですか?

いいえ。矯正、入れ歯、かぶせ物の治療でも、同じ考え方を診査と設計の土台にしています。

治療ごとに、使う装置やつくるものは違います。

数値が出れば、治療後の噛み合わせも決まりますか?

数値で示されるのは、目指す噛み合わせのおおよその目標です。

実際の経過には、体の適応の違いや、噛み合わせ以外の要因も関わります。

そのため、装置や仮歯・仮義歯で確かめ、必要に応じて記録し直します。

歯ぎしりは、なくしたほうがよいのですか?

歯ぎしりでは強い力がかかるため、歯や歯の周りの組織、顎関節の問題に関わることがあるとされています。

一方で、スラビチェック教授と佐藤教授は、歯ぎしりを、心の負担に関わる咀嚼器官の働きの一つとして論じています。

これは考え方の紹介で、当院の治療でストレスが減る、という意味ではありません。

当院では、寝ている間に歯がどう当たっているかをブラックスチェッカーで確かめ、噛み合わせの設計に生かします。

治療が終わったあとも、確かめますか?

はい。寝ている間の歯の当たり方などを、治療のあとも見続けます。

噛み合わせの考え方は、長い年月の経過の中で確かめていくもの、というのが院長の考えです。

参考にした資料

一般的な説明(考え方の背景・柱・歯ぎしりについての考え方)に、次の公開資料を参考にしました。当院のやり方は、院長の投稿・説明によるものです。

相談・お問い合わせ

医療法人社団 耆婆会 吉見歯科医院
〒194-0001 東京都町田市つくし野1-29-1 スクエア2 302(3階)
TEL 042-795-1359 FAX 042-795-1398
診療日: 月・火・木・金 10:00–13:00 / 14:30–18:00

初診は、検査と診断を行う初診コンサルテーション(自由診療・30分〜1時間)から始まります。他院での診断についてのご相談も、この中でお受けします。

噛めない、症状が強いなど緊急の場合は、お電話(042-795-1359)でご相談ください。

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