瞳孔反射の測定とは
瞳孔反射の測定は、目に光を当てたときの瞳孔の大きさの変化を記録し、数値にする方法です。
当院では、浜松ホトニクス社製の瞳孔記録計「イリスコーダ デュアル(C10641)」を使っています。
瞳孔は、黒目の中心にある、光を通す部分です。
目に光が入ると小さくなり、その後、もとの大きさへ戻っていきます。
この反応を、瞳孔反射(対光反射)と呼びます。
医療機器としての一般的な名前は「瞳孔記録計」です。
当院の診査項目では、「瞳孔反射による自律神経反射検査」にあたります。
当院は、噛み合わせと自律神経機能の関係を調べる研究に、瞳孔反射の測定を使っています。
このページは測定の技術を紹介するもので、治療の効果を説明するものではありません。
開発の背景
イリスコーダは、1969年に、東京大学医学部眼科の石川哲講師(当時)から依頼を受けて、浜松ホトニクスが開発を始めた装置です。
自律神経の働きと関わりの深い瞳孔の反応(瞳孔の面積の変化)を、正確に測ることが目的でした。
瞳孔反射の測定のしくみ
赤外線で、瞳孔を写す
製造販売業者の電子添文の説明をもとに、しくみを4つの段階に分けてご紹介します。
- 目を赤外線で照らし、赤外線のカメラで写します。人の目は赤外線を感じず、瞳孔も赤外線には反応しないため、照らしている光で瞳孔の大きさが変わることはありません。
- 瞳孔では照らした光が反射しないため、目のほかの部分より暗く写ります。この暗い部分を取り出して、瞳孔の横の長さ(横径)を測ります。
- 決まった目に見える光を短く当てて、瞳孔がどう反応するかを記録します(対光反応の測定)。光を当てる時間は約1秒です。
- 記録から、瞳孔の大きさや、反応の速さ・時間などの値を計算します。
当てる光の強さは、電子添文では、光が目に与える影響についての国際規格(IEC 62471)の「リスク免除」の区分とされています。
瞳孔が小さくなる・大きくなるしくみ
瞳孔が小さくなることを「縮瞳」、大きくなることを「散瞳」といいます。
縮瞳には副交感神経が、散瞳には交感神経が関わっています。
瞳孔を小さくする働きは、目を動かす神経(動眼神経)を通って伝わります。
大きくする働きは、脳の視床下部から始まる交感神経の経路を通って伝わります。
副交感神経と交感神経は、どちらも自律神経です。
瞳孔反射を記録すると、自律神経が関わる反応の一つを、数値として見ることができます。
イリスコーダ デュアル
左右の目を、同時に記録します
イリスコーダ デュアルは、左右の目の瞳孔を同時に記録できる測定器です。
ゴーグルの形をした測定部を両目に当てて測ります。
研究では、赤い光(波長635nm)と青い光(波長470nm)を使いました。
赤い光は、瞳孔反射を起こすために標準的に使われる光です。
測定器が目に直接触れることはなく(非接触)、体を傷つけずに(非侵襲的に)、短い時間で測れます。
記録画面の見方
記録画面の上の赤い線は、光を当てている間を表します。
下の緑の線が、瞳孔の直径です。
光が当たると線が下がり、瞳孔が小さくなったあと、少しずつもとの大きさへ戻っていきます。
記録からは、次の値を求めます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| D1 | 光を当てる前の瞳孔の直径 |
| D2 | 光を当てたあと、最も小さくなったときの瞳孔の直径 |
| CR | 瞳孔が小さくなった割合(縮瞳率) |
| t1 | 光を当ててから、瞳孔が小さくなり始めるまでの時間 |
| t2 | 小さくなり始めてから、縮む量の半分(50%)に達するまでの時間 |
| t3 | 瞳孔が最も小さくなるまでの時間 |
| t5 | 最も小さくなったあと、瞳孔の直径が63%もとに戻るまでの時間 |
| vc | 瞳孔が小さくなるときの、最も速い速さ |
| vd | 瞳孔が大きくなるときの、最も速い速さ |
| ac | 瞳孔が小さくなるときの、最も大きい加速度 |
記録画面には、これらの値が表示されます。
研究では、記録した瞳孔の直径のデータから、研究用に作ったプログラム(MATLAB)でこれらの値を計算しました。
当院が瞳孔反射を測る理由
噛み合わせと自律神経の関係を、測れる形で調べるため
上下の顎と歯の感覚や動きには、三叉神経という神経が関わっています。
顎の周りの三叉神経と自律神経の反射については、これまでに多くの報告があります。
一方で、噛み合わせの違いによって自律神経の働きがどう違うかについては、報告が少ないと当院では考えています。
院長はそこに着目し、2002年から、測定できる形で調べてきました。
瞳孔反射で見る理由
瞳孔反射の神経の回路に、歯や顎の感覚を伝える三叉神経が、直接加わっているわけではありません。
論文では、口や顔からの感覚が視床下部の働きを通じて自律神経の状態に関わり、間接的に瞳孔の動きに表れうる、と説明しています。
研究では、歯ぎしりの直後の反応を記録するため、短い時間で測れる瞳孔反射を選びました。
噛み合わせや歯ぎしりとの関係で瞳孔反射を調べた研究は、まだ少ないとされています。
治療の目標を、データではっきりさせたいから
院長は、歯科の治療で何を目標にするのかを、測定した情報からはっきりさせたいと考えています。
また、客観的なデータにもとづいて治療方針を決める方法は、術者による差を減らせると考えています。
当院での実際
研究での測り方
2026年の論文の研究では、次の順番で瞳孔反射を測りました。
- 暗く静かな部屋で椅子に座り、20分間、目を暗さに慣らします(暗順応)。その終わりに、基準になる瞳孔反射を記録します。
- 顎台と額当てで頭を支え、ゴーグルの形をした測定部を両目に当てます。
- 歯に着ける取り外しのできる金属の装置(メタルオーバーレイ)で噛み合わせの条件を一時的に変え、30秒間、下あごを左右に動かして歯ぎしりの動きをしていただきます。
- その直後に、赤い光と青い光をそれぞれ1秒間当て、光の1秒前から10秒後まで、瞳孔の直径を1秒間に60回記録します。
- 2分休んだあと、装置を付け替えて、もう一つの噛み合わせの条件で同じように測ります。
協力者は、健康な成人17名です。
研究は、医療法人社団 耆婆会と明治大学の倫理審査委員会の承認を受け、協力者から書面で同意をいただいて行いました。
記録の解析は、院長が所属する明治大学 理工学部 小野弓絵教授の研究室で行っています。
瞳孔反射を使った研究は、2019年と2020年の日本自律神経学会でも発表しました。
2020年の発表は、赤い光を当てたときの瞳孔反射を扱ったものです。
発表と論文は、研究活動・論文・学会のページにまとめています。
診療での使い方
診療では、必要と判断した患者さんに、瞳孔反射の測定を行うことがあります。
すべての患者さんに行う検査ではなく、症状や状態によって必要な検査を選びます。
検査の結果は、患者さんにもお見せします。
ほかの検査との組み合わせ
顎関節症の詳しい検査では、必要に応じて、顎の動きの記録(キャディアックス)、骨格の分析、筋電図、自律神経反射検査などを組み合わせて行います。
研究では、瞳孔反射と同じ機会に、心電図(心拍変動)と噛む筋肉の活動(筋電図)も記録しています。
瞳孔反射の測定で分かること・分からないこと
分かること
- 光を当てたときの、瞳孔の大きさの変化(直径と、小さくなった割合)
- 光を当ててから反応が始まるまでの時間
- 瞳孔が小さくなるときと、もとへ戻るときの速さや時間
- 左右の目の反応(両目を同時に記録)
- 同じ方法で条件を変えて測ったときの、記録どうしの違い
分からないこと・当院での補い方
| 分からないこと | 当院での補い方 |
|---|---|
| 時間の流れに沿った、自律神経の変化 | 心拍変動(研究では、歯ぎしりをしている間を心電図で記録) |
| 噛む筋肉が、どれだけ働いたか | 筋電図 |
| 顎関節の動き | キャディアックス |
| 頭痛・肩こり・睡眠の悩みなどの症状の原因 | 瞳孔反射の数値や噛み合わせだけでは決めません。必要に応じて、医科での評価をおすすめします |
瞳孔反射の数値が表すのは、決められた条件で光を当てたときの、その時点の瞳孔の反応です。
論文で調べたのは、健康な成人の協力者が、噛み合わせの条件を一時的に変えて歯ぎしりをした直後の反応でした。
長い期間続いている噛み合わせの状態との関係は、さらに研究が必要だと論文に書かれています。
研究で調べている関連と、一人ひとりの症状が起きている理由や治療の効果は、別のものです。
瞳孔反射の測定は、症状を良くするためのものではなく、反応を記録するためのものです。
よくあるご質問
- なぜ歯科で瞳孔反射を測るのですか?
当院では、噛み合わせと自律神経機能の関係を研究しています。
瞳孔の動きには副交感神経と交感神経が関わるため、自律神経が関わる反応を記録する方法の一つとして使っています。
- 測定器が目に触れたり、体を傷つけたりしますか?
測定器は目に直接触れません。
ゴーグルの形をした測定部を両目に当てて、赤外線のカメラで瞳孔を写します。
体を傷つけずに(非侵襲的に)行う測定です。
- どのような光を当てるのですか?
決まった目に見える光を、約1秒間当てます。
2026年の論文の研究では、赤い光と青い光を使いました。
このページの記録画面の写真は、赤い光を当てたときのものです。
- 記録画面の数値は、何を表しているのですか?
光を当てる前と最も小さくなったときの瞳孔の直径、小さくなり始めるまでの時間、縮むときと戻るときの速さなどです。
どれも、測ったときの瞳孔の反応を表す値です。
- 瞳孔反射の数値で、症状の原因が分かりますか?
瞳孔反射の数値だけで、症状の原因を決めることはできません。
必要なときは、医科での評価もおすすめしています。
関連する技術・治療
- 心拍変動(HRV)
- 筋電図(EMG)
- キャディアックス(Cadiax)
- メタルオーバーレイ
- 使用している技術の一覧
- 顎関節症・歯をなるべく抜かない矯正歯科:頭痛・肩こり・耳鳴り・眠りにくさについて
- かみ合わせと自律神経機能
- 研究活動・論文・学会
参考にした資料
一般的な説明(しくみ・開発の背景)に、次の公開資料を参考にしました。当院のやり方は、院長の投稿・論文・説明によるものです。
- イリスコーダデュアル C10641 電子添文(医薬品医療機器総合機構の公開資料)
- 浜松ホトニクス「浜松ホトニクスの歩み」
- Yoshimi H, Suzuki T, Ono Y. Autonomic Responses to Tooth Grinding under Different Dental Occlusal Conditions. Advanced Biomedical Engineering. 2026;15:36-45(英語)
相談・お問い合わせ
医療法人社団 耆婆会 吉見歯科医院
〒194-0001 東京都町田市つくし野1-29-1 スクエア2 302(3階)
TEL 042-795-1359 FAX 042-795-1398
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初診は、検査と診断を行う初診コンサルテーション(自由診療・30分〜1時間)から始まります。他院での診断についてのご相談も、この中でお受けします。
噛めない、症状が強いなど緊急の場合は、お電話(042-795-1359)でご相談ください。


