治療顎位とは

治療顎位(ちりょうがくい)は、治療で目指す下あごの位置のことです。

当院では、検査で記録した顎関節の動きや骨格などから、この位置を前後・左右・上下の3つの方向で算出します。

上あごに対する下あごの位置を、一般に「下顎位(かがくい)」といいます。

学術的な用語には、治療の目標として計画的に設定する「治療下顎位」(英語の頭文字で TRP)があります。

顎関節の動きの分析などから、今の下顎位を変える必要があると判断したときに設定する位置です。

当院の治療の流れでは、詳しい検査のあと、治療の方針を設計する段階で、治療顎位を決めます。

決めた位置は、まず咬合器の模型の上に表し、そのあと装置や仮歯の形にして、口の中で確かめます。

治療顎位のしくみ

位置と高さを、数値で決める

顎関節は、3次元に動きます。

そのため当院では、顎関節の情報を x軸・y軸・z軸の3つの方向で捉え、それを基準に治療顎位を設定します。

一般的な考え方では、治療の目標の位置を決めるとき、次のものを決めます。

決めるもの一般的な決め方
下顎頭(かがくとう:顎関節の、下あご側の部分)の前後・左右・上下の位置下顎頭の動き方を記録して解析し、その結果を参考に、3次元の数値として決める
噛み合わせの高さ(咬合高径:こうごうこうけい)骨格のバランスがとれる高さを目指す。例えば、横顔のX線写真の上で、顔の下の部分の高さを目安にして、上下の顎の前後のバランスがとれる高さを計画する

決めるまでの流れ

治療の目標の位置は、一般に次のような順番で考えます。

  1. 基準の位置を決める:位置を数値で表すため、繰り返し同じように記録できる基準の位置を決めます。一例として、下あごを軽く後ろへ導いたときの、下顎頭のいちばん後ろの位置を基準にする考え方があります。
  2. 動き方を調べる:下顎頭の位置のずれや、関節の中の組織(関節円板)との関係のずれは、動き方の変化として記録に表れるとされています。
  3. 位置を変えるかを判断する:今の位置のままでよいか、変える必要があるかを判断します。
  4. 目標の位置と高さを決める:前後・左右・上下の位置と、噛み合わせの高さを決めます。
  5. 体が慣れるかを確かめる:高さを大きく変えるときなどは、仮の装置や仮歯を使って、その位置に体が適応するかを慎重に確かめます。
  6. その位置を保てる噛み合わせをつくる:下あごが後ろへ下がらないように導く歯の形や、噛む面の傾きも合わせて考えます。

例:上下の方向の圧迫を、まず一部だけ解く

院長の投稿には、左の顎関節が上下の方向に3mmの圧迫を受けていると分かった方について、「まずは1mm、圧力を解除する」と書いたものがあります。

治療顎位は、このように、方向と量をもった目標として考えます。

写真は、その投稿に添えられていたメタルオーバーレイ(歯の噛む面に重ねる金属の装置)です。

金属でつくったメタルオーバーレイ。歯の噛む面の形をした金属が、数本の歯の分つながっている
メタルオーバーレイ

当院が治療顎位を算出する理由

顎関節の動きに、噛み合わせを合わせるため

当院では、顎関節の3次元の動きに、噛み合わせの働きを合わせることを目指します。

そのために、まず、下あごをどの位置に置くかを決めます。

顎関節にかかる圧力を、方向と量で捉えるため

院長は、顎関節とその周りの組織にかかっている圧力を解くことを、顎関節症の治療の中心と考えています。

院長の投稿では、その圧力の3次元の向きは、奥歯の噛み合わせの状態に左右されると説明しています。

だからこそ、目標の位置を座標として正確に知り、それを模型の上に表せることが要る、という考えです。

その方の記録から、一つずつ算出するため

骨格も、顎の動き方も、一人ひとり異なります。

院長は、噛み合わせのデータを、骨格、顎関節の3次元の動き、寝ている間の歯ぎしりなどの記録を合わせて算出すると書いています。

治療顎位も、一つの検査の値だけで決めず、こうした記録を合わせて考えます。

算出した位置を、手に取れる形にして確かめるため

院長は、検査で集めた情報は、形に表せなければ意味をもたないと考えています。

算出した位置は、咬合器の模型、装置、仮歯へと形を変えながら、口の中で確かめられるものにします。

当院での実際

検査から、口の中で確かめるまで

治療顎位は、顎関節症の治療では次の順番で扱います。

  1. 記録する:必要に応じて、キャディアックスで顎関節の動きを、ラテラルセファロ分析で骨格を、分割模型で一本ずつの歯を、ブラックスチェッカーで寝ている間の歯の接触を記録します。
  2. 算出する:記録を合わせて、治療顎位を前後・左右・上下で算出します。
  3. 模型の上に表す:算出した位置を、上下の歯の模型を取り付けた咬合器に設定します。
  4. 口の中で確かめる:模型の上の位置を装置や仮歯の形にして口の中に着け、顎の動きを記録し直します。
  5. 保てる噛み合わせにする:必要に応じて、矯正やかぶせ物・入れ歯で、その位置を保てる噛み合わせに整えます。

検査は、すべての方に同じものを行うのではなく、症状やお口の状態に合わせて選びます。

咬合器に表す装置:コンダイラー リポジショニング バリエータ

ギルバッハ レファレンスSL咬合器に、顎関節の位置を設定する装置と上下の模型を取り付けたところ
咬合器での顎の位置の設定と模型

当院では、算出した治療顎位を模型の上に表すために、咬合器にコンダイラー リポジショニング バリエータという装置を取り付けます。

院長は、顎関節は3次元に動くので、目標の位置も3次元で表せる装置が要る、と書いています。

咬合器の製造元は、下顎頭の位置を3つの方向に数値で合わせる装置を用意しており、治療で目指す下あごの位置の設定などに使えるとしています。

咬合器に設定する値の全体は、ギルバッハ レファレンスSL咬合器のページでご紹介しています。

口の中に移して、確かめる

模型の上で決めた位置は、装置や仮歯の形にして、口の中へ移します。

  • メタルオーバーレイ:院長の投稿には、キャディアックスの検査で算出した治療顎位を、メタルオーバーレイに表した例があります。
  • メタルスプリント:当院では、治療で目指す顎の位置を口の中で確かめるための装置として使うことがあります。
  • 仮歯・仮義歯:横顔のX線写真の分析やキャディアックスの記録などをもとに作り、使っていただきながら位置や形を確かめます。

仮歯へ移すときは、咬合器の上と口の中とで、同じ基準の点を手がかりにします。

装置を着けたあとは、同じ方法で顎の動きを記録し直し、症状の変化とあわせて確かめます。

矯正・かぶせ物では

矯正では、目標の値を先に装置で口の中に入れておき、そのあとで歯を動かす方法があります。

金属の部分に骨格とキャディアックスの3次元のデータを入れ、別の部分で、そのデータを天然の歯へ移していく装置を使うこともあります。

院長の投稿には、治療顎位を表したメタルオーバーレイと、矯正治療を組み合わせた例もあります。

歯を動かすときは、一本ずつの歯を3次元に動かすためのワイヤー(MEAW)を使います。

かぶせ物では、治療顎位を基準にして、一本ずつの歯の山の斜面の角度(咬頭傾斜角)と、その方向・距離を決めます。

歯ごとの角度の決め方は、シーケンシャルオクルージョンのページでご紹介しています。

矯正が終わったあとはリテーナーを使い、必要に応じて寝ている間の歯の接触を確かめます。

入れ歯では

院長は、顎関節症は総入れ歯の方にも起こると書いています。

入れ歯では、力を抜いた状態の顎関節の動きをキャディアックスで、噛みしめた状態の動きを口内法のゴシックアーチトレーシングで記録し、粘膜の記録と合わせます。

総入れ歯では、横顔のX線写真の骨格の分析から、噛み合わせの高さと噛む面の傾きを決め、キャディアックスの記録から、人工歯の山の斜面の角度を決めます。

顎関節症の方の仮の入れ歯では、顎関節にかかっている力を解くことを、最初の目標にします。

治療顎位でできること・できないこと

治療顎位でできること

  • 治療で目指す下あごの位置を、前後・左右・上下の数値として表す
  • 顎関節の動き、骨格、歯、寝ている間の歯の接触の記録を、一つの目標にまとめる
  • 目標の位置を、咬合器の模型の上に設定する
  • 装置や仮歯を通して、模型の上の位置を口の中で確かめる
  • 矯正・かぶせ物・入れ歯の噛み合わせを考えるときの、共通の基準にする

できないこと・当院での補い方

できないこと当院での補い方
顎関節の記録だけで、骨格や噛み合わせの高さを決めることラテラルセファロ分析で骨格を調べる
一本ずつの歯の向きや高さを知ること分割模型で確かめる
寝ている間の歯の接触を知ることブラックスチェッカーで記録する
噛みしめた状態の下あごの動きを知ること(入れ歯)口内法のゴシックアーチトレーシングで記録する
模型の上で決めた位置が、その方の口の中で合うかを知ることメタルオーバーレイや仮歯・仮義歯を使いながら確かめ、顎の動きを記録し直す
決めた位置を、長く保てる噛み合わせにすることシーケンシャルオクルージョンの考え方で歯の形を設計し、必要に応じてMEAWで歯を動かす
頭痛・肩こりなどの症状の原因を決めること治療顎位だけでは決めません。必要に応じて、医科など他科での評価をおすすめしています

一般に、ヒトの下あごの位置は安定しにくく、位置を変えるときは、体がその位置に慣れていく働き(適応)を利用するとされています。

噛み合わせの高さを大きく変えるときは、仮の装置や仮歯で、体が適応するかを慎重に見極める必要がある、ともされています。

院長も、検査の時点で数値として分かるのは、目標のおおよその位置だと書いています。

そこからの差は、体の慣れ方の違いや、噛み合わせ以外の要因によって生じると考えています。

治療顎位は、症状の変化や治療の結果を約束する値ではありません。結果には個人差があります。

よくあるご質問

治療顎位とは、どこの位置のことですか?

上あごに対して、治療で目指す下あごの位置のことです。

当院では、顎関節の位置を、前後・左右・上下の3つの方向で考えます。

噛み合わせの位置を、変えることになるのですか?

下あごの位置を変えるかどうかは、検査の結果から判断します。

一般にも、まず位置を変える必要があるかを判断し、必要なときに目標の位置を決めるとされています。

治療顎位は、一度で決まるのですか?

算出した位置は、装置や仮歯で口の中に移し、顎の動きを記録し直して確かめます。

院長の投稿には、上下の方向に3mmの圧迫が分かった方について、まず1mm分を解除する、と書いたものがあります。

模型の上で決めた位置を、どうやって口の中に移すのですか?

咬合器の上で決めた位置を、メタルオーバーレイ、メタルスプリント、仮歯などの形にします。

仮歯へ移すときは、咬合器の上と同じ基準の点を手がかりにします。

入れ歯の方でも、下あごの位置を考えますか?

はい。入れ歯でも、下あごの位置(顎位)を、記録をもとに決めます。

力を抜いた状態と噛みしめた状態の顎関節の記録、骨格、粘膜の記録を合わせて、人工歯の噛み合わせを考えます。

治療顎位が決まれば、症状はなくなりますか?

治療顎位は、治療で目指す位置の目標です。位置を算出したことで、症状の変化が決まるわけではありません。

装置を使って確かめ、顎の動きや歯の接触の変化も記録しながら進めます。結果には個人差があります。

参考にした資料

一般的な説明(治療下顎位の考え方・下顎頭の位置を3つの方向に設定する装置)に、次の公開資料を参考にしました。当院のやり方は、院長の投稿・説明によるものです。

相談・お問い合わせ

医療法人社団 耆婆会 吉見歯科医院
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TEL 042-795-1359 FAX 042-795-1398
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