シーケンシャルオクルージョンとは
シーケンシャルオクルージョンは、下あごを横に動かしたときに、奥の歯から順番に離れていき、犬歯などが動きを導くように組み立てた噛み合わせです。
当院では「順次離開咬合」「順次誘導咬合」とも呼んでいます。
ウィーン大学のルドルフ・スラビチェック教授と、神奈川歯科大学の佐藤貞雄教授らが示してきた、噛み合わせの理論です。
当院の診査と設計の土台であるオーストリアン・ナソロジーの中で、噛み合わせの組み立て方にあたります。
考え方の背景
スラビチェック教授は、多くの人の横顔のX線写真を調べたデータをコンピューターで評価し、その結果から噛み合わせの考え方をまとめました。
この考え方は、のちに「犬歯が主導する、順次の側方ガイド」と呼ばれるようになりました。
顎関節の道筋だけでなく、骨格の条件や比率も考えに入れるのが特徴とされています。
治療を受けていない自然な歯並びを調べた研究でも、下あごの動きを導く歯の斜面の傾きは、前歯から奥歯へ向かって順に小さくなり、大臼歯はとても平らだったと報告されています。
この研究は、その結果が、前から後ろへ順番のあるガイドの考え方を支えるとしています。
シーケンシャルオクルージョンのしくみ
横へ動くときの、歯の離れ方
当院では、次の点をそろえて設計します。
- 噛み込んだときは、左右の奥歯が、同じくらいの数と強さで接触するようにします。
- 下あごを横へ動かすと、後ろの歯から順に接触が離れていくようにします。
- 小臼歯(前から4番目・5番目の歯)も、動きを導くガイドに加えます。
- 犬歯が、主に動きを導くようにします。
「順次」は、この順番に離れていくことを指しています。
一般に、ウィーンの噛み合わせの考え方では、ガイドの傾きは第一大臼歯で最も平らで、犬歯へ向かって順に急になるように組み立てるとされています。
犬歯がすり減ったときには、第一小臼歯がガイドの一部を引き受けます。
歯ごとに違う角度
そのため、歯の斜面の角度(咬頭傾斜角)は、一本ずつ違う値になります。
写真の表でも、前の歯ほど大きく、奥の歯ほど小さな角度の値が並んでいます。
角度の決め方の一例として、上の犬歯は、顎関節が前へ滑り出る角度より3°ほど低くし、下あごがなめらかに動くことを目指します。
前歯はさらに低い角度にし、下あごが横へ動くときに、引っかからずに通り過ぎるようにします。
これらの角度は、キャディアックスで記録した顎関節の道筋の角度などから算出し、ギルバッハ レファレンスSL咬合器の上で歯の形にします。
後方運動のガイド(Retrusive guidance)
院長の説明では、深い眠りのときには、体の筋肉と一緒に顎の周りの筋肉も力が抜け、下あごが重力で後ろへ下がります。
眠りが浅くなったときに歯ぎしりが起こると、後ろに下がった下あごが、顎関節の後ろ側の組織(バイラミナーゾーン)を押すことがあります。
そこで当院では、下あごの後ろへの動きをコントロールするためのガイド(後方運動のガイド:Retrusive guidance)も、順次のガイドとあわせて、歯の形の設計に取り入れています。
たとえば、第一小臼歯(4番)だけでなく、第二小臼歯(5番)にも横へのガイドを持たせ、下あごが後ろへ下がった状態からでも、筋肉の力をコントロールできることを目指します。
乳歯の奥歯のワックスでは、青い部分が、下あごが後ろへ動いたときにぶつからないよう空けておく場所、緑の部分が、横へ動くときの導きを受け持つ場所です。
下あごが後ろへ動いたあとも、横へのガイドが残るように形づくっています。
ワックスの色の意味と、形をつくる工程は、ワックスアップのページで詳しくご紹介しています。
当院がシーケンシャルオクルージョンを使う理由
矯正から総入れ歯まで、同じ目標で設計できるから
当院では、矯正・入れ歯・顎関節症の装置・かぶせ物のどれでも、同じ噛み合わせの理論で目標を決めます。
総入れ歯でも、入れ歯だけの特別な噛み合わせを考えるのではなく、天然の歯と同じ考え方で、順次離開咬合を与えます。
矯正のワイヤーの曲げ方と、総入れ歯の人工歯の並べ方に共通する点が多いのは、そのためです。
寝ている間の歯ぎしりまで、考えに入れるため
歯ぎしりのときには、下あごが横や後ろへ動きながら、強い力がかかることがあります。
当院では、こうした寝ている間の噛み合わせを、昼間の噛み合わせと同じように大切にしています。
横への動きでは奥の歯から順に離れ、犬歯などが動きを導くようにし、後ろへの動きには後方運動のガイドを設けることで、寝ている間の力のコントロールを目指します。
顎関節の道筋に、歯のガイドを合わせるため
下あごの動きを導く歯の角度は、顎関節の道筋の角度に合わせて決めます。
犬歯の角度を、顎関節が前へ滑り出る角度より少し低くするのも、その一つです。
当院での実際
設計から確認まで
- 治療で目指す顎の位置を決める:キャディアックスの記録や骨格の分析などから、治療で目指す下あごの位置(治療顎位)を算出します。
- 歯ごとの角度を決める:顎関節の道筋の角度などから、一本ずつの歯のガイドの角度を算出し、咬合器に設定します。
- 形にする:ワックスで歯の形を設計し、装置・仮歯・入れ歯・かぶせ物にします。
- 口の中で確かめる:装着したあとに、顎の動きや歯の接触を確かめます。
- 寝ている間の働きを確かめる:ブラックスチェッカーで、寝ている間の歯ぎしりのときに、横と後ろへのガイドの面や、上下の歯の支えがどう働いているかを確かめます。
顎関節症の装置
顎関節症の装置の一つに、下あごの位置を3次元の空間の中で決めたうえで、後方運動のガイドと順次のガイドを持たせたメタルオーバーレイがあります。
当院では、これを「SOMOTR」(英語の名前の頭文字)と呼んでいます。
装置については、メタルオーバーレイのページでご紹介しています。
矯正
矯正でも、奥の歯が順に離れる働きと、寝ている間の力のコントロールを目標にします。
お子さんの治療でも、昼間の噛み合わせだけでなく、寝ている間の噛み合わせを確かめます。
ワイヤーについては、MEAWのページでご紹介しています。
入れ歯
総入れ歯では、骨格の分析で噛んだときの高さと噛む面の傾きを、キャディアックスの記録で人工歯の斜面の角度を決め、順次離開咬合を与えます。
人工歯の並べ方は、人工歯の排列のページでご紹介しています。
かぶせ物
多くの歯をまとめてかぶせ物で整えるときも、歯ごとのガイドの角度を事前に算出し、咬合器の上で形を決めます。
シーケンシャルオクルージョンでできること・できないこと
できること
- 下あごを横に動かしたときに、奥の歯から順に離れるように、歯ごとの角度を組み立てる
- 犬歯と小臼歯に、動きを導く役割を分けて持たせる
- 下あごが後ろへ下がった状態からでも、横へのガイドが働くように設計する
- 矯正・入れ歯・装置・かぶせ物に、同じ考え方の目標を与える
できないこと・当院での補い方
シーケンシャルオクルージョンは噛み合わせの組み立て方なので、それだけでは決められないことや、確かめられないことがあります。
当院では、次の方法を組み合わせて補います。
| できないこと | 当院での補い方 |
|---|---|
| 設計したガイドが、寝ている間に実際に働いているかを知ること | ブラックスチェッカーで、寝ている間の歯の接触を確かめる |
| 治療で目指す顎の位置そのものを決めること | キャディアックスの記録などから算出し、咬合器に設定する |
| 歯ごとの角度のもとになる値を得ること | キャディアックスの記録や、ラテラルセファロ分析による骨格の分析などから得る |
| 模型の上で決めた噛み合わせが、口の中で合うかを確かめること | 仮歯や装置を使いながら確かめる(仮歯・仮義歯) |
当院では、治療のあとも、寝ている間の歯の当たり方を確かめ続けます。
よくあるご質問
- 「順次離開咬合」と「順次誘導咬合」は、同じものですか?
はい。当院では、どちらもシーケンシャルオクルージョンを指す言葉として使っています。
下あごを横に動かしたときに、奥の歯から順に離れていく噛み合わせです。
- 犬歯だけで、横への動きを導くのですか?
犬歯が主に導きますが、小臼歯にもガイドの役割を持たせます。
下あごが後ろへ下がった状態からでも横へのガイドが働くように、第二小臼歯までガイドに加えることがあります。
- 入れ歯にも、この噛み合わせを与えるのですか?
はい。当院では、総入れ歯にも、天然の歯と同じ考え方で順次離開咬合を与えます。
- 寝ている間の歯ぎしりと関係がありますか?
はい。歯ぎしりのときの、横や後ろへの下あごの動きを考えに入れて設計します。
設計したガイドが寝ている間に働いているかは、ブラックスチェッカーで確かめます。
- 子どもの歯(乳歯)でも考えますか?
はい。乳歯の奥歯にも、噛み込む点、後ろへの動きで当たらない部分、横と前へのガイドを分けて設計することがあります。
関連する技術・治療
参考にした資料
一般的な説明(考え方の背景・ガイドの傾きの順番)に、次の公開資料を参考にしました。当院のやり方は、院長の投稿・説明によるものです。
- Sukalo M.「Rudolf Slavicek und die Gnathologie in Österreich」ウィーン医科大学 学位論文, 2016(ドイツ語・PDF)
- Kulmer S, et al. Incline and length of guiding elements in untreated naturally grown dentition. J Oral Rehabil. 1999;26(8):650-660(英語)
相談・お問い合わせ
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