粘膜の記録とは
粘膜の記録は、入れ歯を支える歯茎(粘膜)の形を、噛む力の入り方ごとに捉えて、入れ歯の形に表すための記録です。
当院では、歯茎の形を「力を抜いたとき」「力が入ったとき」「その中間」の3つの状態で捉え、入れ歯の設計に生かします。
入れ歯は、歯茎の上に乗って働きます。
歯茎はやわらかく、噛むと押されて沈みます。
その沈み方は、噛む力の大きさによっても変わります。
そこで当院では、噛んでいるときの歯茎の形も想定して、入れ歯の内側の面に表します。
この記録に、顎関節の動きの2つの記録(力を抜いた状態と、噛みしめた状態)を合わせて、入れ歯を設計します。
粘膜の記録のしくみ
歯茎は、場所と力によって沈み方が違います
入れ歯を支える歯茎の厚みや性質は、場所によって違います。
噛む力が大きいか小さいかによっても、沈む量が変わります。
当院では、噛む力の大きさと粘膜の厚みの違いから生じる、沈み込みの量の釣り合いを考えて、入れ歯を設計します。
歯が残っている方の部分入れ歯では、残っている歯と歯茎の両方が、入れ歯を支えます。
院長の説明では、噛んだときの歯茎の動きは、歯の動きの10倍ほどになります。
歯を失ったあとに残った、歯を支えていた骨(歯槽骨)がつくる高まりを、一般に顎堤(がくてい)と呼びます。
顎堤は粘膜に覆われていて、入れ歯を支える土台になります。
入れ歯の下の骨は、使っているうちに、少しずつ吸収することがあります。
3つの状態を捉えます
軽く噛み合わせたときと、食いしばったときとでは、歯茎が受ける力の大きさがまったく違います。
そのため当院では、歯茎の形と顎関節の動きを、次のように組み合わせて記録します。
| 状態 | 記録するもの |
|---|---|
| 力を抜いたとき | 歯茎の形/顎関節の動き(キャディアックス) |
| 力が入ったとき(噛みしめたとき) | 歯茎の形/顎関節の動き(口内法のゴシックアーチトレーシング) |
| その中間 | 歯茎の形 |
顎関節の動きも、歯茎の形も、力の入り方で変わります。
院長は、入れ歯をつくる側が、この違いを考えに入れる必要があると話しています。
記録を、入れ歯のどこに表すか
院長は、総入れ歯で大切なことを、次の3つにまとめています。
- 入れ歯の内側の面(歯茎に触れる面)に、噛んでいるときの歯茎の形を想定して表す。
- 舌や頬の粘膜が動いているときの形を型に取り、入れ歯の外側の面の形に反映させる。
- 下あごが落ち着く位置を、入れ歯の噛み合わせに表す。
3つめの、下あごの位置と噛み合わせは、骨格と顎関節の記録から考えます(人工歯の排列)。
金属のフレームが歯茎に触れる所
金属のフレーム(入れ歯の骨組み)を使う入れ歯では、フレームが歯茎や舌に触れる所の形も考えます。
口の中で、違和感をいちばん覚えやすいのは舌です。
そのため、舌の形をフレームの形に反映させます。
歯茎とフレームの間を空気が出入りすることも、違和感の原因になります。
当院では、フレームの縁に「ビーディング」と呼ぶ小さな立ち上がり(衝立)を付けて、違和感を減らす工夫をしています。
当院が粘膜の記録を使う理由
入れ歯は、歯茎の上で安定させる必要があるから
軽く噛んだときと、噛みしめたときで、歯茎が受ける力が違うから
入れ歯は、軽く噛み合わせているときも、しっかり噛みしめたときも、歯茎の上で働きます。
どちらか一方の状態だけでなく、両方の状態と、その中間まで入れ歯の形に表すことを目指しています。
噛んでいるときに、圧力を均等に分けたいから
院長は、粘膜の種類と性質をよく知り、噛んで働いているときに、歯茎にかかる圧力を均等に分けることが大切だと考えています。
顎堤の骨の吸収が大きい方の総入れ歯でも、この考え方は変わりません。
長い期間、使っていただくものだから
入れ歯は、長い期間使っていただくものです。
院長は、その長い経過を考えると、2つの状態の記録をきちんと取り、それを入れ歯の形に正確に表すことが大切だと話しています。
当院での実際
入れ歯をつくる流れの中で
粘膜の記録は、入れ歯をつくるときの検査と設計の中で行います。
歯茎だけで支える総入れ歯でも、残っている歯と歯茎で支える部分入れ歯でも、粘膜の上での安定を考えます。
- 初診コンサルテーションで、いまの入れ歯で困っていることや、これまでの治療をうかがい、お口の状態を確かめます。
- 詳しい検査で、骨格(ラテラルセファロ分析)と、顎関節の動き(キャディアックス・口内法のゴシックアーチトレーシング)を記録し、歯茎の形も捉えます。舌や頬が動いているときの形も型に取ります。
- 記録をもとに、咬合器に付けた模型の上で、人工歯の位置(人工歯の排列)や、フレームの形(有限要素法にもとづく義歯設計)と合わせて、入れ歯を設計します。
- 製作では、樹脂が固まるときの縮み(重合収縮)や、白金加金を鋳造するときの縮み(鋳造収縮)で生じるずれを見込み、補正値を入れます(鋳造・白金加金)。
- 仮義歯を使っていただきながら、入れ歯としての働きを確かめます(仮歯・仮義歯)。
- 最終の入れ歯を入れたあとも、歯茎と入れ歯の状態を確かめ、必要に応じて調整します。
時間がたってからの変化
入れ歯の下の骨が吸収すると、歯茎の形も変わっていきます。
当院では、設計の段階からこの変化を考えに入れ、入れ歯を入れたあとも状態を確かめます(入れ歯:長く使うために)。
粘膜の記録で分かること・分からないこと
粘膜の記録で分かること
- 力を抜いたときと、力が入ったときの、歯茎の形の違い
- その中間の状態の、歯茎の形
- 場所による、粘膜の厚みや性質の違いと、沈み方の違い
- 舌や頬の粘膜が動いているときの形
分からないこと・当院での補い方
| 分からないこと | 当院での補い方 |
|---|---|
| 力を抜いた状態の、顎関節の動き | キャディアックス |
| 噛みしめた状態の、顎関節の動き | 口内法のゴシックアーチトレーシング |
| 骨格と、上下のあごの間の高さ | ラテラルセファロ分析・人工歯の排列 |
| 部分入れ歯で、支える歯にかかる力 | 有限要素法にもとづく義歯設計 |
| 製作の工程で生じる、形のずれ | 樹脂と金属の縮みを見込んだ補正値(鋳造) |
| 使い始めてからの、骨や歯茎の変化 | 入れたあとの経過の確認と調整(入れ歯のページ「長く使うために」) |
よくあるご質問
- 粘膜の記録では、何を記録するのですか?
入れ歯を支える歯茎(粘膜)の形を、力を抜いたとき、力が入ったとき、その中間の3つの状態で捉えます。
舌や頬が動いているときの形も型に取り、入れ歯の外側の面に反映させます。
- 顎の動きの記録とは、別のものですか?
別の記録です。
顎の動きの記録には、力を抜いた状態を記録するキャディアックスと、噛みしめた状態を記録する口内法のゴシックアーチトレーシングがあります。
当院では、この2つの顎の動きの記録と、粘膜の記録を合わせて、入れ歯を設計します。
- 歯茎がやせていると言われました。入れ歯はつくれますか?
まず、歯茎と、その下の骨の状態を調べます。
骨の吸収が大きい方の総入れ歯でも、粘膜の種類や性質をよく知り、噛んだときの圧力を均等に分けることを大切にしています。
どのような入れ歯が考えられるかは、検査の結果をもとにご説明します。
- 使っているうちに、歯茎の形は変わりますか?
一般に、入れ歯の下の骨は時間とともに吸収することがあり、歯茎の形も変わることがあります。
当院では、設計の段階からこの変化を考えに入れ、入れ歯を入れたあとも状態を確かめます。
- 舌や頬の形まで、入れ歯に関係するのですか?
はい。入れ歯の外側の面には、舌や頬の粘膜が触れています。
当院では、舌や頬が動いているときの形を型に取り、入れ歯の外側の面の形に反映させます。
金属のフレームを使う入れ歯では、舌の形をフレームにも反映させます。
関連する技術・治療
- 口内法のゴシックアーチトレーシング
- キャディアックス
- 人工歯の排列
- 有限要素法にもとづく義歯設計
- 使用している技術の一覧
- 入れ歯(精密義歯):総入れ歯と部分入れ歯、それぞれの考え方
- 入れ歯(精密義歯):長く使うために
参考にした資料
一般的な説明(用語の意味)に、次の公開資料を参考にしました。当院のやり方は、院長の投稿・説明によるものです。
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